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2016年3月の記事

2016.03.30

ロバート・テイラー主演の記憶喪失ものサスペンス!無実の罪を晴らせ!…『高い壁』

 西横浜のシネマノヴェチェントでフィルム・ノワール傑作選②の二本(『高い壁』、『暗闇に響く銃声』)を鑑賞しました。一本目は1947年の『高い壁』です。

JP

 ロバート・テイラー主演の記憶喪失ものサスペンスでした。タイトルは主人公が収容された病院の塀を指していますが、同時に無実の罪を着せられた主人公が冤罪を晴らすためのハードルの高さを表しているようです。

 監督は傑作選①で上映された『失われた心』のカーティス・バーンハートです。両作品共記憶喪失ものなのですが、『失われた心』がひたすら過去の事件を物語るのに対して、『高い壁』はリアルタイムで起こる事件を描いています。その分サスペンス度も高くなっています。

注:"JP"と記載された写真はAmazon..co.jp(日本)に、"UK"と記載された写真はAmazon..co.uk(英国)に、"USA"と記載された写真はAmazon.com(米国)にリンクしていますので、ご注意ください。

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2016.03.21

古典怪奇短編の妙味!名作家達の競演!・・・『夜光死体―イギリス怪奇小説集 』(旺文社文庫)

 旺文社文庫『夜光死体―イギリス怪奇小説集 』を読了しました。もちろん古書で、1980年刊行の古典怪奇小説のアンソロジーです。英文学者の橋本槇秬さんの訳で10篇が収められています。さすがに訳文には古さを感じてしまいますが、名だたる書き手の名作ばかりを集めてあり、薄くても読み応えがある一冊でした。

Yakoshitai

 短編怪奇小説はいかに冗長さを排して怖さを読者に与えるか、だと思います。極端な話、最小限の怪異描写で最大限の恐怖を与えてくれるお話が好ましいのですが、このアンソロジーはその点粒ぞろいでとても嬉しく思いました。

 作者はレ・ファニュ、キプリング、スティーブンソン、ジョゼフ・コンラッド、ウエルズ、ドイル、ヘンリー・ジェイムズとビッグネームが並び、加えて三人の忘れられた作家の傑作が収録されています。

 ジョゼフ・シュリダン・レ・ファニュの「マダム・クロウルの幽霊」は、老女が回顧する形をとった恐怖譚です。老女は少女時代に、悪魔に取り憑かれていると噂されているクロウル夫人のお屋敷に仕えていました。そこで経験した怪異が淡々と語られます。凄まじい老醜を着飾って隠すマダム・クロウルの方が実態のない幽霊よりも怖いかもしれません。もっとも、後に幽霊もちゃんと出現します。最後に語られる謎解き要素は当時の流行なのでしょうか?

 ラドヤード・キプリングの「獣の印」はインドを舞台にした怪異譚です。荒くれ者の英国軍人が酔ってハヌマーンを穢したことにより報いを受けます。この小説の面白いところは、仲間達が軍人を助けるために奮闘するところであり、結末は「ジャングルブック」の作者らしくユーモラスです。

 スティーヴンソンの「死体盗人」はバークとヘアー事件が起こる前にノックス教授に死体を調達していた助手達が味わう、身もすくむ恐怖を描いています。怪異はラストの一瞬にのみ起こるのですが、それまでの過程でボディ・スナッチャー達の生態が生々しく描かれており、かなり効果的な因果応報譚になっています。

 ジョン・ゴルトの「不吉な渡し船」は、若い頃に渡し場で出会っただけの軍人を何年もの間夢で幻視し続けた主人公が、とうとう年老いたその軍人と再会し、自分の幻視の内容を伝えると…というお話です。幻視の不思議と因果応報談が組み合わさった佳作です。ゴシック的な運命譚でもあります。

 ジョゼフ・コンラッドの「二人の魔女の宿」はナポレオン戦争時のスペインを舞台に、現地の反仏ゲリラと連絡を取るべく敵地への上陸を試みた英海軍の軍人が経験した恐怖を描きます。とは言っても超自然の怪を描くものではなく、ある仕掛けのワンアイデアで読ませます。

 表題作「夜光死体」はディック・ドノバン作のお手本のような幽霊譚です。英国の片田舎ブリントンの医者が往診時に見かけた怪異が綴られます。

愛馬プリンセスが突然おびえて棒立ちになった。わたしの背中にもさっと冷たいものが走った。顔に何かがぴしゃりと触れた。そして闇の彼方にぼんやり光る物体が浮びあがってきたのだ。そこは幽霊風車小屋の近くだった……(カバー裏の内容紹介より)
考えてみれば、暗闇の中に幽霊が佇んでいても視認性は極めて低いですね。自ら発光していれば幽霊も見つけてもらえて効果的です。

 バーナード・ケイペスの『月に撃たれて』は、怪奇小説と言うよりもSF一歩手前の幻想小説です。滝がレンズの役割を果たし、見えたのは・・・、というお話です。カバー画はこの作品をモチーフに描かれているようですが、見事に雰囲気を表しています。

 H・G・ウェルズの『故エルヴィシャム氏の物語』は、やはりSFの始祖であるウェルズの作品らしくSF一歩手前のファンタジックな小説で、若い肉体を手に入れるために・・・という今でこそよくあるお話なのですが、これが魔法の類に依ってではなく、何らかの薬品を使うというところに当時は新味があったのでしょう。語り口の上手さはさすがウェルズです。

 サー・アーサー・コナン・ドイルの『革の漏斗』は、考古学者がパリの怪しげな骨董愛好家ダクレ氏の家で経験する不思議な夢のお話です。ダクレの理論では枕元に置いた古物の情報を夢で得ることができるというものでした。主人公はダクレ氏が持つ古い漏斗を枕元に置いて眠ります。そして見た夢は・・・。封建時代の拷問の物凄さは洋の東西を問わずだと思いますが、主人公は恐ろしい思いをしたに違いありません。

 ヘンリー・ジェイムズの『ある古衣の物語』は、巻末を飾るにふさわしいオーソドックスな幽霊譚です。しかもジェイムズの小説ですから幽霊の出現を具体的に描かずに読者に最大限の恐怖を与えてくれます。nastyやgruesomeと言った形容詞ではない本当の恐怖の根源は、見せないことに尽きる気がします。

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