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2011.06.18

騙される快感、もう一つの丸の内OL殺人事件は『恋の罪』の前哨戦?!・・・小説『追悼者』(折原一・作、ネタバレあり)

折原 一
文藝春秋
発売日:2010-11


 『追悼者』はもう10年以上も前に渋谷円山町で起こった丸の内OL殺人事件をモチーフにした小説で、犯罪実話ではなくミステリーであり、事件現場も浅草に、被害者の勤務先大手旅行代理店へとも変えている。奇しくも同じモチーフの映画『恋の罪』が秋に公開される年に出版されたのには、何らかの符合が感じられる。

 著者の折原一は49作も著している有名なミステリー作家であり、しかも、叙述ものの専門家らしい。お恥ずかしいことに自分は著者の本を今まで読んだことがなく、これが最初の折原本だ。確かに見事に騙され、最後まで犯人を当てることはできなかった。

「おにいさん、ちょっと遊びませんか」  昼は丸の内OL 夜は街娼  二つの貌が招く 残酷な復讐&逆転劇

浅草の古びたアパートで発見された女の絞殺死体。被害者は大手旅行代理店のOLだが、夜になると街で男を誘っていたという。この事件に興味を抱いたノンフィクション作家が彼女の生い立ちを取材すると、その周辺に奇妙な事件が相次いで起きていたことが分かる。彼女を殺したのは誰か?その動機は?「騙りの魔術師」折原一が贈る究極のミステリー。(帯より)

 再読してみると、作者はちゃんとヒントを与えてくれているし、よく読み込めば犯人も見えてくる。しかし、ちりばめられたミスリードの罠に引っ掛かって、ちゃんと書いてある事実を読み取れない。「新s(あらたにす)」の「著者に聞く」コーナーで著者が「ひとりの視点でみていくと犯人がすぐに分かりますが、多くの証言を入れることで犯人像を絞り込めないように工夫しています」とコメントしてる。多くの証言というのは、探偵役(というより狂言回し)のノンフィクション作家笹尾時彦だけではなく、女性の同業者が独自の視点で取材をして、その結果を笹尾に共有化するためである。それに加えて、後半は他のライター情報も入ってくる。

 この小説はプロローグと各章の間に置かれた「幕間」を除けば、ずっと三人称で書かれているのだが、前述の証言(間接取材もある)を整理して直接インタビューの形にまとめた取材ノート(つまり一人称の独白体)が挿入される。これはノンフィクションの手法そのもので、佐野眞一や朝倉喬司が書いた著作のパスティーシュとも思える。

 久間十義の書いた『ダブル・フェイス』もモチーフは同じ事件で、『追悼者』と同じ百合子という名のヒロインが出てくる(そう言えば、「ユリコ」という名は桐野夏生の『グロテスク』にも沼田まほかるの『ユリゴコロ』にも出てくる)。『追悼者』の百合子は笹尾の同業者である女性ライターだ。これは偶然だろうか。その百合子(高島百合子)は笹尾と共同で取材をする内に関係を結ぶが、どうもそれは殺されたOLの気持を知るために笹尾を利用しているだけのようでもあり、後半にはかなり奇矯と見える行動もするようになる。やはり、この事件をモチーフにしたフィクションでは、事件後にOLの行動をなぞる人物を登場させることが読者にリアリティを感じさせる必須条件のようでもある。

 詳しいことを書くとネタばれになってしまうが、この小説はミステリーであって、犯人探しが大目的だ。そのため丸の内OLの二面性について深く掘り下げるようなことは手段でしかない。しかし、ノンフィクション作家が書いた実録ものよりもこの小説の方が被害者の夜の顔と昼の顔の違いに納得の行く答えを出してしまっているのは皮肉な結果と言えるだろう。

 なお、出版元である文藝春秋社のサイトには

丸の内OL絞殺事件、「昼と夜」2つの貌が呼び寄せた悲劇 浅草のアパートで見つかった丸の内OLの遺体。「昼はOL、夜は娼婦」、彼女を取材したノンフィクション作家が辿りついた意外な真犯人
と書かれている。

(以下はネタばれしていますので、これからご覧になる方はご注意ください。)

(以下はネタばれしていますので、白いフォントで書いています。)

 この本も東電OL事件を題材にはしているが、『ダブル・フェイス』とは違って意外な犯人がちゃんと登場する、ミステリー色が濃く出たものだ。叙述ものなので、最初から誰が書いたものなのかわからずミスリードされてしまうのだが、それもフェアにラストではちゃんと明かされる。読み返してみると作者が前半にかなり注意しながら文を置いていることがわかる。

 但し、後半には作者も混乱してきたのか、かなり破綻している箇所も多く思える。例えば、第一平和荘101号室の住人である桜田賢治はいったいどうなったのか?、笹尾はあの状態からどうやって生き残ったのか?、被害者の家族はなぜ笹尾に嘘をついたのか?、第二平和荘101号室の女が名乗った仮名を大家が呼んだのか?・・・等々。まあ、ご愛嬌なのかもしれないが。

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コメント

はじめまして。
唐突にコメントを書かせていただいています。
「追悼者」を読み終わったばかりなのですが、ラストの意味がどうしてもよくわからず、どなたかに教えていただきたく思い、インターネットで検索してこちらのサイトに辿りつきました。
電車待ちをしていた女性が電車にひかれて死亡した、というは自殺だったのでしょうか?それは◯◯の◯が犯人だったという事で?!でしょうか?遺体の損傷がひどく~という個所は何か意味があるのでしょうか?
読みが浅くて恐縮なのですが。。。ここまで読んでよくわからないままになってしまうのがすっきりせず、もしお時間などがありましたがこの部分の意味を教えていただきたく思います。

投稿: chiharu | 2011.09.15 23:32

chiharuさん、こんにちは、コメントありがとうございます。一部伏字にさせていただきました。

私は、chiharuさんが考えられたことで合っていると思います。著者が朦朧と書いたのは、実際の事件を参考にしているからでしょう。配慮したのだと思います。

投稿: モリアーチー | 2011.09.16 12:37

お返事のコメントありがとうございました。
(ネタばれのところ伏字にしていただいてありがとうございます、すみません・・・)
実際の事件を参考にしているということで、どこからどこまでが事実なのかなと思わせる趣向もありそうですね。
私はここ最近になってこの作者の本を読み始めましたが独特な世界にいつも迷い込んでしまいます。

投稿: chiharu | 2011.09.17 11:59

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